自分の引越しにどのくらいの費用がかかるのかを知るには、引越し業者から見積もりを出してもらう必要があります。
引越しの荷物を運ぶための料金は、荷物を運ぶ人が決めるからです。
引越しをするために引越し業者を利用するのであれば、ユーザーは自分の引越しなのに自分では引越し料金を計算することはできません。
引越しをするのは本人なのに、ユーザー自身が自分では決められないのが引越し料金の特徴でもあります。
では、なぜ引越しするユーザーが引越し料金を決められないのか、引越しするには引越し業者の見積もりが必要なのかを見ていきます。
フィリップ・コトラーのサービスの定義
アメリカ合衆国の経営学者フィリップ・コトラーはサービスを以下のように定義しました。
このフィリップ・コトラーが提唱したサービスという定義に照らし合わせて、引越し業者が提供している引越しサービスを見ていきます。
サービスの定義・サービスには形がない
有形のモノに対してサービスとは無形のもの。
たとえば、旅行会社が販売している旅行という商品には形がない。
サービスを利用することそのものが目的となり得るサービスがある
旅行サービスを利用するユーザーは旅行がしたくて旅行会社や宿泊施設、航空会社や鉄道街を利用します。
旅行とは旅行するのに必要になる施設や交通機関などが提供している、それぞれのサービスを利用することを楽しむ行為です。
ですから、旅行ではあの宿に泊まりたいとか、あの列車で移動したいなど、サービスを利用すること自体を目的としています。
旅行そのものがサービスの対象であり、ユーザーは旅行することや旅行することで得る体験に価値を感じることができるのです。
引越しサービスを利用したくて引越しするユーザーはいない
引越しサービスを利用したいという理由で引越しをする人はいません。
引越し業者が提供している引越しサービスは、サービス自体を楽しめる、あるいは引越しサービスを受けることで価値を感じられるものではないのです。
引越し業者が提供する引越しサービスは、ユーザーにとってしてみれば、引越しをするという目的を達成するために受け入れなければならないサービスなのです。
サービスの定義・サービスは生産と消費が同時
旅行という体験(=商品)は、その都度生産され、その場で消費されるというように、サービスには製造→在庫→納品といったプロセスがない。
引越し当日、引越しが終わってしまえば引越しサービスはなかったものと同じ
引越しサービスにも形がありません。
引越しが終わってしまえば、引越しをしたユーザーは引越し業者を利用したことなど忘れてしまうでしょう。
引越し業者が提供する引越しサービスを利用しても、そのことを覚えていて旅行サービスのように楽しかった思い出として後々語られる事はありません。
引越しサービスはあっという間に終わり、ユーザーの記憶にとどまらないほどです。
引越しを担当した引越し業者の印象がユーザーに強く残ったなら、それは引越しのときのトブルが原因で悪い印象が強い場合だけです。
引越しが上手くいったら、ほとんどの場合、ユーザーに引越しを成し終えた引越し業者の印象は残りません。
サービスの定義・サービスは人への依存度が高い
今日では機械やシステムによるサービスも増えてきたが、サービスの提供主体は人であることが多い。
引越しサービスはまさに人が行うサービス
引越しの見積もりに来た営業マンにいい印象を持ったから、その引越し業者に引越しサービスを依頼することを決めたとします。
でも、引越し当日、引越しの作業をしてくれた作業員に対しては、いい印象を持てませんでした。
よくあることです。
引越サービスは人が行う無形のサービスですから、引越しサービスの良し悪しはそのまま引越し作業員から受ける印象となります。
引越し当日の引越し作業員の印象一つで、その引越しに対してユーザーが持つ印象は変わるということです。
サービスの定義・サービスはプロセスも商品
ヘアサロンは結果としてのベネフィット(=ヘアカット)だけでなく、提供プロセス(顧客との会話や室内環境)も商品となる。
引越しサービスも過程スケジュールが大事
大手引越し業者は引越しサービスのあり方や過程をある程度マニュアル化しています。
引越し作業員は引越し当日、作業開始前に作業員全員でお客様に挨拶をします。
引越し作業員全員で挨拶することで何人の作業員がこの引越しに関わっているかがユーザーに伝わりりますし、作業員の印象も、また、ユーザーの印象も最初の挨拶である程度つかめます。
サービスの定義・サービスには所有権の移行がない
ヘアカットしたい場合、ハサミを購入すれば「モノ」の所有権そのものが移行するが、ヘアサロンという「サービス」を利用するということ求めるベネフィットのみを購入することになる。
引越しサービスでも処分品がない限り所有権の移行はない
引越し業者の引越サービスを利用して引越し先の新居に荷物を運び込むことも引越しサービスの一部なのですが、引越しで運び込まれる荷物はもともとユーザの持ち物ですから、持ち主が変わるわけではありません。
不要品の処分を引越し業者に依頼した時にのみ引越しで扱われる物の所有者が変わります。
サービスの定義・サービスでは顧客がサービスの一部を担う
レストランの雰囲気など顧客そのものがサービスの一部を負うことがあるとともに、相談しながら要望を形にしていくヘアサロンのように顧客と共同でつくり上げるという特性がある。
引越しサービスも引越し業者とユーザー双方の協力で成り立っている
引越し業者が提供している引越しサービスは、他のサービスに比べてユーザーの負担が大きいといえます。
引越し当日までの荷造りは、通常、ユーザーが行う作業です。
引越し当時も、ユーザーは引越し業者から様々な指示を仰がれます。
例えば、タンスを置く場所、エアコンを設置する部屋はどこか、テレビを置く向き、冷蔵庫のコンセントはどこから取るかなど、特に引越しの新居でユーザーは様々な支持を引越し業者に出さなければなりません。
引越し業者から見積もりを出してもらったら、あとは引越し業者にすべておまかせというわけにはいかないのです。
見積もりが必要になるサービスとは
例えばA4のコピー用紙を2,500枚買おうと思ったら、およそ2,000円程度で流通していますから、表示してある価格で購入すればいいだけで、販売店から特に見積もりを出してもらう必要はありません。
ところが、A4の用紙2,500枚に自社オリジナルのデザインを印刷して、チラシとして使用するために購入するを検討しているのであれば、同じA4の用紙2,500枚でも見積もりが必要になります。
なぜなら、購入を検討しているチラシが一般的には流通していないオリジナルのものだからです。
ユーザーが望む製品やサービスが唯一無二のものであれば見積もりが必要になる
モノクロ印刷とカラー印刷では印刷料金も違いますし、費用を抑えるなら単色印刷という手法もあります。
デザインの制作費だってデザイナーによって料金設定が違います。
チラシを作るにも様々な条件がありますから見積もりが必要になるのです。
引越しもその引越しごとに条件が違う唯一無二のもの
引越しの移動距離、荷物量、引越し元の旧居と引越し先となる新居の建物の立地条件、引越しをする日にち、時間帯など引越しの条件が同じ引越しはありません。
引越しには条件が全く同じ引越し案件は存在しませんから、引越し案件は全てオリジナルです。
ですから引越しを予定しているユーザーごとに引越しの見積もりも違うのです。
同じユーザーの引越し案件であっても引越し業者によって見積もりの内容、引越し料金が違う
一人のユーザーの引越し案件に対して出された引越しの見積もりであっても、引越し業者が違えばサービスの内容や引越し料金が違います。
見積もりを出す時の引越し業者の状況によって引越し料金が変わるからです。
同じユーザーの引越し案件に出される見積もりの料金が引越し業者ごとに違うわけ
ユーザーの引越し希望日に引越し案件が集中していて自社のトラックがほとんど埋まっている引越し業者からは大きな値引きは期待できません。
同じユーザーの引越し希望日に引越し案件の予定があまり入っておらず、トラックがたくさん空いている引越し業者はトラックの予定を早く埋めたいので大胆に値引きした引越し料金を提示することでしょう。
引越しサービスを発注、受注する形式とは
引越し業者は引越しサービスの見積り依頼があると、見込み客の家を訪問して家財を見ながら引越し荷物の総量を算出した上で引越し料金の見積もりを出します。
引越し業者がユーザー宅を訪問して見積もりを出す訪問見積もり
ユーザーは引越し業者が提示した今回の引越しに対する見積もりのサービス内容と引越し料金に納得したときにだけ、見積もりを出した引越し業者に引越しサービスを依頼すればよいのです。
引越し業者に見積もりを依頼したからといって、必ず引越サービスを依頼しなければならないわけでありません。
引越し業者が提示した引越しの見積もりの内容、引越し料金に納得できなければ別の引越し業者から見積もりを取ることもできます。
引越しサービスではまず引越し業者が見積もりを提示しユーザーがその見積もりを見て回答する形になっています。
引越しというサービスでは引越し当日の数日、数週間も前に見積もりを取って、サービスの内容と料金を確認して発注するスタイルが主流になっています。
引越しはサービスの実施前にサービスの内容と料金が決まる
引越し業者が提示した見積もりをユーザーが確認して引越しサービスを依頼した時初めてその見積もりは有効になります。
有効になった見積書にはすでに引越しに使用するトラック、引越しのスケジュール、作業人数、作業開始時間などが書いてあり、引越しまでのスケジュールも引越し当日も全てこの見積書のとおりに進められます。
その引越しにいくらかかったかを引越し後に引越し業者がユーザーに請求するスタイルはユーザーのためにならない
引越しにかかった費用を引越し後に引越し業者が計算して請求する方式では、引越しの予算が立てられないだけでなく、引越し料金は引越し業者の言い値になってしまいます。
引越し後に引っ越しにかかった実費を請求する形をとってしまうと、本来、3トントラックを使って3人の作業員で十分な引越しなのに、4トントラックを使って4人の作業員を引越し作業に当たらせて、高額な引越し料金を請求することだってできるのです。
その引越しサービスが最適な形で行われたか確認ができないと水増し請求だってできてしまうのです。
ユーザーごとに、また、引越しのタイミングごとに引越し料金が違うのですから、引越し料金が時価であることは間違いありませんが、引越しサービスの実施後に料金を明かされて納得するユーザーはいないでしょう。
また、引越し後に引っ越しにかかった実費を請求する形式では、複数の引越し業者から見積もりを取る相見積もりもできなくなってしまいます。
何度も利用していて気心の知れた引越し業者であればこの限りではありません。
見積もりなしで引越しを依頼することができるでしょう。
まとめ
サービスとは形のない財産ですが、ユーザーはサービスを利用することで旅行やヘアーサロンのように経験やプロセスを得ることができます。
引越しサービスからは経験することの価値や美的価値を得る事はできませんので、住居を移るためだけの目的で利用するサービスです。
引越しサービスの料金は引越し業者から見積もりを出してもらうことで初めてわかります。
引越しサービスはサービスを実施する前にサービスの内容と料金を決めて利用するサービスです。
引越しすることが決まったユーザーはまず引越し業者から見積もりを依頼しましょう。